『終末のフール』伊坂幸太郎
『終末のフール』は、伊坂幸太郎氏の小説の一つであり、2006年に刊行されました。
限りある人生を、人はどう生きるのか?
「8年後に地球が滅亡する」と発表されてから5年。世界中が大混乱に陥る中で、人々はどう生きるのか?仙台の団地に住む人日ちおを主人公に、愛や家族、人間の本質を見つめる傑作連作種。
寂しさのような、悲しさのような、暖かさのような優しいような勇気があり、抱きしめたくなるような作品『終末のフール』伊坂幸太郎の感想レビューを紹介します!
『終末のフール』面白い?あらすじ
「8年後に小惑星が衝突して地球は滅亡します」
そう報道されてから5年ほど、世界はパニックに陥りました。我先に助かろうと逃げ出す人々、警察もろくに機能しない中で他者に危害を加える人々、自殺や一家心中を図る人々……。そんな大混乱を経て、少し落ち着いた「地球滅亡まであと3年」という世界。
それが、この物語の舞台となります。全人類の余命があと3年ほどとなった世界で、人々は何を思い、どう生きるのでしょうか。
この作品では、仙台市にある「ヒルズタウン」というマンションの住人たちを主人公に物語を展開しながら、今日を必死に生きる人々を描き出しています。
『終末のフール』面白い? 感想口コミレビュー
「生きることの意味」
もしも余命1年だと宣告されたら、あなたはどうしますか?もしも明日世界が滅ぶとしたら、あなたはどうしますか?
私たちはこのような問いかけを時々耳にします。小説や映画やドラマなどをとおしてその状況を疑似体験し、考えてみることもあるでしょう。私が初めて「明日が地球最後の日だとしたら誰と一緒にいたい?」という質問を見たのは、中学時代の「学級文集」の中だったと思います。そのとき一体誰の名前を書いたのか、全く思い出せません。無難に友人同士で名前を書き合って済ませたような気もします。
つまり、私の「死」に対する認識とはこんなものだったのだと思います。もちろん、親戚などの死を経験したことはありますが、私にとって「死」とはまだ非常に遠くにあり、現実感のないものだったのです。だからこれまで、フィクションをとおして問いかけられても、現実味のない答えしか出せなかったのだと思います。
『終末のフール』の中には、もう3年後には滅亡する地球に生きる人々が描かれています。彼ら、彼女らもおそらく報道を受ける前は、今の私と同じように何気なく毎日を送っていたことでしょう。それが、突然あと数年の命だと宣告されます。私は、どうしてこの人たちは、ここまで「精一杯」なのだろうかと疑問に思いました。
少なくとも私自身は、「明日もし……」というたぐいの問いに対して、現実味のない答えしか出せなかったのです。フィクションとはいえこんなにも現実味のない事実を突きつけられた人々は、どうしてここまで「余命宣告をされた人」になれたのだろうと疑問に思ったのです。
「省略しない伊坂幸太郎」
私は読み進めていくうちに、気づきました。伊坂幸太郎さんは作品の中に、たびたび世界滅亡を宣告された人々の狂気を描き出しています。食料を奪い合う人々の様子や、「どうせ死ぬなら」と他人に危害を加える人々の様子、実際に騒動に巻き込まれて命を落とした人々の様子などです。町は目に見えて荒れ果て、亡くなった人々がそのままにされている様子まで描かれていました。まるで芥川龍之介の『羅生門』のようです。
主人公たちは、そういった「普通の町が荒れていく過程」を見てきた人々でした。彼らは突然「終末」という舞台に舞い降りたわけではありません。混乱の中で実際に暴漢に襲われ、また自身が盗みを働き、家族を亡くし、人を殺めるなどしながら、死に物狂いで生き延びてきた人々だったのです。そんな彼らが出した「生きることの意味」が、現実離れしているわけがありませんでした。
懸命に今を生きる主人公たちの姿。それを目の当たりにした私は、特に生とも死とも向き合うことなく「明日地球が滅んだら?」という問いに軽々しく答えていた自分を反省しました。
この作品自体はフィクションですし、実際に「数年後には地球が滅ぶ」と公式発表されることはないでしょう。それでも、どんな人にも必ず「死」は訪れます。今度もし「生きることの意味」を問われることがあったら、そのときはもう少しマシな回答を出したいと思いました。
伊坂幸太郎作者プロフィール紹介
宮城県仙台市在住の作家です。仙台市を舞台にした作品が多く、『週末のフール』もそれに当てはまります。代表作には『重力ピエロ』や『アヒルと鴨のコインロッカー』などがあります。話題作や映像化されている作品も多く、幅広い世代から人気を集めている作家です。
『終末のフール』こんな人に読んでもらいたいおすすめ
SFが好きな人も、ぜひ!
まず、設定からしてありえないのですが、近い将来に「地球滅亡」が決定している世界です。しかし『アルマゲドン』のような作品に描かれる派手なアクションや、世界を救うために宇宙船に乗って地球を飛び出すみたいな展開はありません。「地球滅亡」を控えた世界の中で、人々が生きているだけです。
しかし、その描かれた世界が妙にリアルで「こんな光景の中で、人々は何を思って生きているのか」と考えずにはいられなくなります。
21世紀を生きる私たちは、これまで多くの経験を積んできました。事故や災害、最近では「新型コロナウイルス感染症」などもそうです。今は平和でも、いつどんな形で「終末騒ぎ」が訪れるかわかりません。いろんな経験を積んできたはずなのに、つい考えることを忘れていた「生きることの意味」と向き合うのもいいかもしれません。
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