リカーシブル米澤穂信あらすじは?感想口コミレビュー!

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『リカーシブル』 米澤穂信

『リカーシブル』は米澤穂信による日本の推理小説。

血のつながらない姉と弟が、ほろ苦い家族の過去を乗り越えて地方都市のミステリーに迫る。

十代の切なさと成長を描く、心を突き刺す青春ミステリ作品のあらすじや感想口コミレビューを紹介します♪

リカーシブル(あらすじ)

 「リカーシブル」という語には、再帰的なという意味があります。自分自身に戻ってくるような、という意味です。

 タイトルの説明から始まるこの作品は、中学1年生のハルカが弟のサトルとともに、母の故郷である坂牧市へ引っ越してきたところから始まります。父親は失踪したため、いません。引っ越してきた母の故郷は田舎の町、住むことになったのは広いけれど古い家です。

 活気のない商店街に、過疎化の進む町にある学校は生徒数が少なくて教室が余っています。そんな町の中学校に通うことになったハルカは、入学から間もなくして自称「勘が鋭い」少女、リンカと友達になります。

 教室で浮かないように、変なイメージが付かないように、クラスに溶け込もうと必死に気を張るハルカをよそに、弟のサトルは通学路の途中にある橋を怖がり始めたり、突然知らないはずのことを「知っている」と言い始めたりしました。もともとサトルを苦手だと思っていたハルカは、そんなサトルの態度にイライラしますが、実際にサトルの予言が当たるかのように事件が起きます。

 もしかしたらサトルには未来が見えるのではないか。そのような疑惑を持つようになったハルカでしたが、そんなときに学校の社会科教師に「タマナヒメ」にまつわる民話を聞かされることになりました。

 この町にまだ存在するかもしれない「タマナヒメ」伝説と、町への高速道路誘致運動なども絡み、徐々に謎に迫っていくハルカが最後に知ったのは、あまりにも悲しい家族の事情でした。



 

リカーシブル米澤穂信 見どころ

壮大な「仕掛け」が施された町

 まず、この物語の主人公であるハルカと、弟のサトル(小学校3年生)は血がつながっていません。サトルは母の連れ子で、母はハルカの父の再婚相手です。とてもきれいで優しい「ママ」なのですが、この母はハルカの父に見捨てられています。ハルカの父は会社のお金に手を出し、それが見つかる前にハルカたちを置いて蒸発しました。

 母がまた子どもたちを連れて故郷に戻ったこと、商店街の福引会場で起こった置き引き事件、登校途中にわたる橋……もう、読者からしたら「そんな大掛かりなことがあるのか」と感嘆のため息が漏れるほどの壮大な仕掛けが施されていました。ここで直接的に絡んでいたのは、わりと物語の最初から「高速道路誘致」の話です。死んでしまった坂牧市を甦らせるために、大人たちが必死になっていたということなのですが、その犠牲になっている子どもたちの存在がまた苦しいと思いました。

 最後まで読んだ方はきっと、米澤穂信さんの仕掛けた壮大なトリックに驚くことと思います。

 

リカーシブル米澤穂信 感想口コミレビュー

強く生きること

 この物語はハルカという中学1年生の少女の視点で進んでいきます。ミステリーですから当然探偵役が必要になりますが、それもこのハルカです。

 ハルカの父親は蒸発しました。母親にとってハルカは、「蒸発した恋人が置いて行った娘」です。籍こそ入れているものの、手紙の一つもよこさず、どこへ消えてしまったかわからない犯罪者の男の娘。そんなハルカに母はご飯を食べせる義理もなければ、学校へ行かせる義理もないはずです。しかし「ママ」は優しかったのです。実の息子のサトルと同じように、ハルカのことも大切にしていました。

 ハルカはそんな「ママ」に対して申し訳なく思い、「ママ」の言うことはちゃんと聞いて、「ママ」に心配かけないようにとそればかり考えていました。

 前の学校では「犯罪者の娘」の烙印を押されて居場所がなくなり、新しい環境の中では必死に空気を読んで教室で生き延びようとしていました。

 そして、様々な謎を解き明かしていって、「高速道路誘致」と「タマナヒメ」とサトルの「予言」を一本の線につなげていき、最後は真犯人(という言い方は正確ではありませんが)との真っ向対決に挑みます。

 私はハルカのことを、なんて強い女の子なのだと思いました。ハルカ自身が書ける問題は暗く、重いものです。大人たちの都合に振り回された被害者であるはずのハルカは、また同じように大人たちに振り回されているサトルを、最後まで一人だけで必死に守っていきました。

 「強くないから、強いふりをするんでしょ!」とは、ハルカが弟のサトルをしかりつけた時の言葉です。大人たちのとても壮大で、そしてとても醜い「仕掛け」に立ち向かっていったハルカは紛れもなく強い女の子でした。それと同時に、これから強く生きていかなければならない女の子だったのだと思います。

米澤穂信は天才か?作者紹介

 私はかねてより米澤穂信さんのファンなので、多くの米澤作品を読んできました。青春物の人気作である「<古典部>シリーズ」から『iの悲劇』のような難しいテーマまで幅広いミステリー作品を書かれている方です。『氷菓』で角川学園小説大賞を受賞されているので、学生の方にも人気のある作家だと思います。

 

リカーシブル米澤穂信 こんな人におすすめ

大人こそ読んでほしい米澤作品の数々

 私は今回『リカーシブル』を読み、大人の方にこそもっと読まれてもいい作家だと改めて痛感しました。米澤さんが作り出す大きなプロジェクトに巻き込まれ、最後は一体どこに連れていかれるのかわからないままたどり着いた先は、「虚しさ」「希望」でした。

 



 

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