「消滅世界」気持ち悪い?感想考察レビュー

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『消滅世界』村田沙耶香さんの小説を紹介します。

人工授精で子供を産むことが常識となった世界ってどんな作品なんでしょうか?

感想レビューを紹介します。


消滅世界あらすじ

「アダムとイブの逆って、どう思う?」

この物語は主人公の雨音(あまね)と恋人のこんなやりとりから始まります。雨音は普通の人とちょっと違った生まれ方をしています。その生まれ方は、私たちが生きる現代社会では当たり前ですが、この作品の世界の中ではそれは「異常」でした。

世界大戦で多くの男性が徴兵され、人口減少が危惧されたことをきっかけに、この作品中の世界では人工授精で子供を産むのが「常識」となりました。そんな世界で主人公の雨音は自分の出生を呪われたものであるかのように感じながら生きていきます。やがて雨音も結婚し、夫と「家族」を作ったのですが、あるきかっけから、「実験都市」である千葉県に移り住むことになります。

 

消滅世界みどころ グラデーションの途中

みどころというか、印象に残るのは雨音と友人の樹里の会話の中で出てきたこの言葉です。「人間はいつまでも完成しない」と樹里は言いました。クロマニヨン人だったころはそれが完成だと思っていただろうし、アウストラロピテクスだったころはそれが完成だと思っていたというのです。

 

消滅世界感想レビュー

しかし、現代を生きる私たちがクロマニヨン人やアウストラロピテクスを振り返ると、ちっとも完成なんてしていないと思います。今の人間が「完成」だと思います。 もしかしたら、100年後、200年後には別の常識が世界に広がっていて、いま「常識」だと思われていることが「異常」だと敬遠されるかもしれません。

たとえば私たちは、古典の授業で平安時代の恋愛を学ぶとなんだか変だと思います。一夫多妻制、男性はのぞき見をして恋人を探していた、女性は離婚から3年経過しないと再婚できない……そんなバカな話があるかと思う人がほとんどでしょう。

しかし、平安時代はそれが当たり前、「正常」でした。作品中では人工授精で子供を産み、人口をコントロールするのが「常識」でした。子供を産んだらセンターに預けられて、子供は「夫婦の子供」ではなく、みんなの「子供ちゃん」として育てられる世界。みんなが「子供ちゃん」の「おかあさん」になる世界。それが作中の世界での「常識」でした。

では、なぜ私はそれを「異常」だと思うのでしょう。それは私が現代を生きているからです。現代を「常識」だと思っているからです。本当はいつだって変化の「途中」だったのに、私はそんなことすらすっかり忘れていました。村田沙耶香さん、さすがだなあと思います。

「あなたが信じている『正しい』世界だって、この世界へのグラデーションの『途中』だったんだ」という主人公の独白に、はっとさせられます。私が今生きているこの世界も、いったいどんな未来へつながっているのかわかりません。現代の私が知ったら、驚くような変化があるかもしれません。しかし未来人はきっと、普通の顔をして暮らしているのです。「あなたが生きていた世界のほうがおかしいよ」と言われるかもしれません。

歴史や古典を学ぶと、「昔はこんなことしてたんだなー」と感心することがあります。私たちが生きている時代だって実は「途中」なのに、どうしてそれを忘れていたのでしょう。この作品の内容については、著名作家たちも驚愕されたようです。本当に衝撃的な1冊でした。

村田沙耶香という作家プロフィール

2016年に『コンビニ人間』芥川賞を受賞された女性作家です。2003年に『授乳』で群像新人文学賞を受賞してデビューされました。変わった話が多いですが、非常に魅力的な文章を書かれる方です。

・「普通」とは、「正常」とは何か?

 そんな疑問を持っている人には、村田さんの描く世界に触れることをお勧めします。芥川賞を受賞された『コンビニ人間』も変わった話ですが、コンビニで働いている時だけは何者でもない「コンビニ店員」でいられるという考え方など、実は多くの人が共感できる要素がたくさんあります。

村田さんの描く世界は、正直少し(かなり)変です。私が初めて読んだ村田さんの作品は「殺人出産」でした。これも、現代の「常識」では考えられない「異常」な世界が舞台となっていますので、私は最初村田さんのことを「変な話を書く人だなあ」と思いました。

しかし、それなのになぜか村田さんの作品にはどんどん魅了されていきました。「コワいもの見たさ」ではないけれど、最後まで見ずにはいられない作品ばかりです。

本当に不思議な魅力のある作品ばかりですが、『消滅世界』が気に入ったという人は、『殺人出産』や『生命式』にもはまると思います。

 




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