『諦めの価値』 森博嗣(朝日新聞出版)
2024年がスタートしました。今年は大規模震災や航空機事故など悲しく、痛ましいニュースが飛び込んでくるところから始まってしまいました。
被害に遭われた方々はもちろん、直接被害を受けたわけではないけれど心を痛めている方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。
そのような中でも夢や目標を諦めず、これから今年1年を何とか充実させていきたいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、そんな方におすすめできる1冊、作家で工学博士の森博嗣さんによる『諦めの価値』を紹介したいと思います。
「諦めなければ夢はかなう?」(内容)
これはよく言われることです。私は学生時代に教員を目指していて、教育実習を経験し
ました。また、教員採用試験に不合格になるという経験もしています。
そのように目標に向かって邁進していく中で、当然周囲の人は「諦めずに、粘り強く!」といったアドバイスをくださいました。
私自身も「諦めたらそこで終わりだ」と考えて努力を重ねてきました。しかし森さんは、そんな一般的な考え方に異論を投げかけています。
子どものころから工作少年だった森さんの夢は、自宅に鉄道を敷いて汽車を走らせたり飛行機を飛ばしたりすることだったといいます。
森さんについて少しでも知っているという人は、今森さんはその夢を見事に叶えて悠々自適な生活を送られているということはご存じでしょう。
森さんはもともと国立大学の工学部に勤務されていました。そこで安定した報酬を得ることはできたわけですが、それでも夢をかなえるための資金集めは到底できないと考え、アルバイトとして小説の執筆を始められたということです。
今では大学勤務も辞め、作家も実は「引退」されていて、時々何かを執筆しながら基本的には工作や庭いじりをしながら生活されています。つまり、見事に夢をかなえることができたということです。
それはもちろん「諦めなかったから夢がかなったのだ」と言えるでしょう。実際に夢を実現された人々の中には、そのようなメッセージを伝える人も多くいます。しかし森さんは夢をかなえる過程の中で、様々なことを「諦めた」と語っていました。
たとえばそれは大学勤務をしながら兼業作家をされていたことです。その頃は、昼間は大学での仕事があるため夜中に小説を書かれていたそうです。
それは休養時間というか快適な時間を「諦めた」ということです。
夢をかなえる過程の中で、今の方法ではどうしてもうまくいかないというときは夢自体を諦めるのではなくて今実行している方法を「諦める」ということが大切になってきます。
森さんは「諦める」ことは戦略であるとも言われています。諦めずにしがみついていたばかりに取り返しのつかない事態に陥ることもあります。早々にその方策を諦めて、次の手段を考えていくことが夢を実現させるためには大切なことです。
また森さんは職業柄、読者の方などから人生の悩みについての相談を受けることも多いそうです。
その相談の中には「夢を諦められない」という内容もあります。しかし森さんによると、「諦められない」と言いながらも夢の実現のために実際に何も試していない人が多いそうです。
いろいろな方法をまずは試してみることで、夢にたどりつくために何を諦めて何を実践していけばいいかが見えてくるということでした。
夢を実現するために何かを「諦める」ということは、実は最良の戦略だというのです。
諦めは思考の連続(みどころ)
夢に向かって進んでいく際に何かを諦めることがある、というのは一見新鮮な考え方で
すが、よく考えてみると当然のことだなと納得できるところが多々ありました。
夢や目標を「諦めない」という考え方は、実はとても抽象的なのだと思います。何を諦めてどの方法を採用すれば夢や目標に近づけるのか、このような考え方をすることは非常に合理的で
す。
このままではうまくいかない方法にしがみつくことは「諦めない」ことではなくて思考停止です。
目標や夢を叶えたいならば、何をそぎ落としていくかと常に考えて行動していくことが大切だと感じられます。
「何をするか」、「何を諦めるか」ということを考えることで、初めて「夢を諦めない」という言葉に具体性が出てくるように思います。
「期待しなければ案外うまくいく」(感想口コミレビュー)
森さんは「諦める」の反対を「期待する」だと考えているようです。
相手や自分、システムや技術なども対象になりますが、何かに期待しすぎているとそれが叶わなかったときに非常にイライラします。
それは確かにその通りです。期待していた相手がそれに応えてくれなかったら腹が立ちますし、その日に来ると思っていた荷物が届かなかったらやはりモヤモヤすることもあるでしょう。
それは森さんが言うには、対象を「諦められない」状態です。
この時に発生するイライラなどの負のエネルギーは恐ろしいものだと思います。
特にネット社会になった今は、「期待を裏切られた」と思った人々が度々誰かを乱暴な言
葉で非難することもあります。
それに一度火が付くと収拾するのが難しくなっていきます。
「諦めないこと」が時として負のエネルギーになるのだと感じたことが、私がこの本から
最も学んだことです。
そういえば、「諦めが悪い」、「往生際が悪い」という言葉もあります。
「諦める」ということは決して悪いことではなく、時として「諦めない」ことのほうが
夢や目標に進んでいく過程の中で足を引っ張ってしまうこともあるのです。
今年もいろいろなことがあると思うけれど、どこが諦め時なのかを見極められるよう、常に思考し実践していきたいと思いました。
著者紹介
1996年に『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞し、作家デビューされました。
国立大学の工学部建築学科で研究するかたわら、ヒット作をどんどん執筆した作家さんで、新書本も20冊以上執筆されています。
現在は田舎暮らしで趣味に生きていらっしゃる印象で、非常に羨ましいと思います。
まとめ「2024年こそは……」と意気込んでいるすべての方へ!
今年の目標を決めたときに、「諦めずに頑張ろう!」と思った方はぜひ本書を読んでみて
ください。
やみくもに「諦めない」のではなく、目標へ向かう過程の中で何を切り捨てて
いくかという視点を持つことの大切さを学べます。夢や目標に向かう過程な中には多数の
「諦め」があるという、目からうろこの1冊です。
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