本と鍵の季節のレビューとあらすじ!続編はあるの?

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『本と鍵の季節』 米澤穂信

 「図書室は寂しくなった。」

上の一文で始まるこの作品は、図書委員を務める高校二年生の男子・堀川を主人公とした物語です。同じく図書委員の松倉とは図書委員会を通じて知り合いました。そんな二人が突如降りかかってきた「謎」を解き明かしていきます。

 

本と鍵の季節を読んだ感想とレビュー

堀川と松倉の関係

私は彼らの関係を見て、「こんな高校生いるだろうか」とまず思いました。昔からの

友人だったわけでもなければ、クラスや部活動を通じて友人になったというわけでもな

い二人です。二人には「図書委員」というつながりしかないので、当然学校では図書館で会うことがほとんどです。

 今も昔も、実際の男子高校生は楽しそうにつるんでいます。やはりそれはクラスや部

活でつながった関係がほとんどなのですが、本当にいつの時代も、楽しそうに大騒ぎし

ています。少しおとなしいタイプの男子たちも共通の話題を持って、そこでやはり楽し

そうにじゃれ合っているのです。

 そういう意味で、堀川と松倉は、互いに気を許し合った親友同士のようには見えません。くだらない話をする場面は当然描かれていますが、どこか互いの間には壁というか線というか、そういうものがあるように思いました。二人とも頭がよく(進学校の生徒です)、ひょんなことからたまたま一緒に「謎解き」をしてきたという経緯はありますが、あの、無邪気にじゃれ合うような高校生男子の空気を彼らからは感じません。

 作中にあったように、二人は「それほど分かり合っていない」のかもしれません。最終章で、堀川は松倉の過去を知ってしまいます。松倉の非常に複雑な家庭事情を知ってしまうのです。松倉から聞いた「昔話」を受けて、堀川が推理した結果わかったことです。松倉もまた、堀川がそこにたどり着いたことを見抜いていました。

 最後の場面で堀川は、「図書委員として」図書館でまた松倉に会うことを願っていました。しかし、どんなに委員の仕事を進めていっても、時間が過ぎていっても、松倉は現れません。現れないところで、この作品は終わっています。堀川はまた松倉に会えたのか、わからないのです。図書委員というつながりしかなかったこの二人の物語でした。 

私自身、学生時代にいくつかの委員会を経験していますが、「委員会の友達」などいなかったと思います。前から友達だった人とたまたま同じ委員会になったことはあっても、委員会で知り合ってそのまま友達になった人はいませんでした。

確かに委員会で顔見知りになり、話すようになった人はいます。しかしその年の委員会が解散したら、その後は廊下で会ったら挨拶をする程度で、特別仲良くなったわけではありませんでした。堀川と松倉もそんな関係なのです。

でも私は、実は二人はとても互いに気を許し合い、分かり合っていたのではないかと思っています。というより、そう思いたいのです。堀川は松倉の「昔話」を聞いて、松倉のことを知りました。松倉はまた、堀川が気付いたことを見抜きました。

 最後、松倉は姿を現さないまま終わっていますが、私はきっとまたこの二人が顔を合わせることができると信じたいのです。松倉はおそらく、堀川に気づいてほしかったのでしょう。わかってほしかったのでしょう。少し「普通の高校生の友人関係」とは違うような気がしましたが、ふたりはちゃんとかけがえのない「友人同士」だったのです。

 「僕の思いつきを松倉が深め、松倉の思い込みを僕が正して、僕たちは上手くやった」というのは、堀川による独白です。いつも二人はこうやって、うまく推理をして様々な謎を解き明かしてきました。本当に理想の友人関係だと思いました。


本と鍵の季節の続編はあるの?

 この作品には続編があります。まだ読んでいません。あの結末以降、図書委員としてまた図書館に並ぶ二人の姿があったのでしょうか。続編未読の私は、また二人並んでくだらない話をしながら、淡々と図書委員の仕事を進めていく姿があったことを願います。

米澤穂信という作家プロフィール

 「<古典部>シリーズ」で有名な推理作家です。このシリーズはアニメにもなっているらしいので、中高生にも人気があると思います。ジャーナリズムとは何かという問いを投げかける『王とサーカス』、iターンプロジェクトを担当する公務員を描いた『iの悲劇』のような少し難しい問題もテーマにミステリ小説を書かれています。『黒牢城』第166回直木賞を受賞されています。

 

本と鍵の季節こんな人に読んでほしいおすすめの人まとめ

「読書をとおしていろいろ考えてみたい人へ」

 『本と鍵の季節』は二人の男子高校生が主人公の物語です。二人の日常の会話は淡々と、しかし軽快に進んでいくので、日頃あまり本を読まない人も楽しめると思います。章立てされているので、気になる話から読んでもいいでしょう(ただし、最後の2章は続きものです)。

 学園小説やキャラ小説を軽く楽しむように読むこともできますが、ところどころ自分事として考えてしまうような描写もあります。これは特に米澤さんの作品に共通する魅力だと思います。「難しい本は苦手だけど、読書体験をとおして人生や生き方について、いろいろ真剣に考えてみたい」という人にうってつけの作品、それがこの『本と鍵の季節』です。

 


 
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