つまらない住宅地のすべての家面白くない?感想口コミレビュー

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『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子

ドラマ化にもなった『つまらない住宅地すべての家』はどんな作品なのでしょうか?

感想口コミやレビューを紹介します♪

つまらない住宅地のすべての家あらすじ

「二つ隣の県の刑務所から受刑者が逃げ出した」
おらく平凡な家々が並ぶ、普通の住宅地に逃走中の受刑者が向かっているという情報が入ってきました。それぞれの家がそれぞれの生活を送っている様子が描写される中で、必ず出てくる「逃走犯」の話題があります。
その住宅地で自治会長になった亮太の父親は、逃亡犯から住宅地を守るべく、同じ住宅地に住む老夫婦の家の2階に目を付けます。夜間に住民同士で協力し、その老夫婦の家から逃亡犯が来ないか、交代で見張ろうと考えたのです。
こうして、これまで今まで深いかかわりのなかった人々が同じ目的のもとに集まることになり、それぞれの家の、それぞれの事情が浮き彫りになっていきます。


つまらない住宅地のすべての家感想口コミレビュー

淡々と進んでいく、結構壮大なミステリー
これが、私がこの作品に対して抱いた感想です。
妻が出て行ったあと、どこかむなしさを感じながら一人息子と二人で暮らしている自治会長、母親が彼氏を中心に生活しているため、幼い妹の面倒を見ているこれもまた幼い姉、少し変わっているゲーマーの一人息子を持て余し、学校へも行かせず倉庫に閉じ込めて育てようとしている夫婦……。
舞台となる住宅地に住む人々だけでも10人以上出てくるので、最初は何度も「住宅地図」と「登場人物」紹介に戻りながら読み進めていくことになりますが、物語に入り込むにつれて、それぞれの人々がそれぞれの色をもった「人間」に見えてきました。
人々の考えに共感したり、噂話を聞くような感覚で興味を持ったりしながら、私はその住宅地で展開される人間ドラマを見ました。思えば私はこれまで何度か引っ越しを経験してきましたが、大人になるほど近所にどんな人が住んでいるのか、まったく気にしなくなりました。気にしなくても生活は回るし、隣の家の事情なんて、特に興味の対象にならなかったのです。
この物語の中には子どもたちも登場します。もちろん子どもなので大人たちの難しい事情は分からない部分もありますが、子どもたちの方がそれぞれの「家」をしっかり見ていると思うこともあります。そういえば自分自身も、子どもの頃の方がどこに誰が住んでいるのか、子ども同士のネットワークを通してよく見えていたような気がしました。
さて、この物語ですが、基本的には淡々と進んでいく人間ドラマです。「逃亡犯」という共通の目的があって人々は集まるようになりましたが、現実世界と同じで、やはり人々は淡々と生活していきます。そかし、その淡々とした中で、少しずつ事件は動いていくのです。そのきっかけは、先ほども述べた子どもたちのネットワークでした。
逃亡犯とある子どもとのつながり、ある住人と逃亡犯との関係、逃亡犯とある一家との因縁……さりげなく静かに描かれていく点、点、点。それが終盤に一気につながり、1本の線になるようでした。こんなにも淡々と進んでいくのに、実はものすごく壮大なミステリー小説を読んだ気がします。
私はこれを読み終えた今も、隣の人がどんな人なのか知りません。昨日すれ違ったときに挨拶した近所の人も、前も見たことがあるような、初めて見たような、私の認識自体が非常に曖昧です。
それでも、うちにいろんな事情があるように、他の家にもその家なりの様々な事情があって様々な思いを抱えて生活しているのだろうと思います。今まで風景の一部でしかなかった近所の人々が、急に「人間」に見えてきたような気がしました。

津村記久子紹介

作者の津村記久子さんは大阪府出身の女性作家です。2008年に『ポトスライムの舟』で芥川賞を受賞されています。会社勤めをしながら作家をされていたこともあり、その経験を基に書かれた作品が多いです。

つまらない住宅地すべての家ドラマを見た人へ

この『つまらない住宅地のすべての家』は、2022年に井ノ原快彦さん主演でドラマ化もされています。ドラマを見た人にはぜひ原作も読んでいただき、津村さんの描く人間ドラマを楽しんでもらいたいです。津村さんの作品を通して、これまで何気なく見ていた風景に突然「色」が浮かび上がってくるかもしれません

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