セカンド・ラブ乾くるみさんの小説の紹介です。
この記事でセカンド・ラブ小説のあらすじや考察、
感想や口コミレビューを知ることができるのでぜひ参考にしてください!
セカンドラブ乾くるみ小説 あらすじ
昭和の男女の恋物語?
1983年元旦、里谷正明は会社の先輩・紀藤に誘われてスキー旅行に行くことになります。メンバーは正明、紀藤、紀藤の彼女・尚美、そして尚美の友人である春香。
正明と春香は互いに恋人がいなかったこともあり、スキー旅行から帰ってほどなく付き合うことになりました。
ところが、ある時二人でデートをしていた際、春香は四十歳くらいの紳士に「美奈子」という名のホステスに間違えられます。スナックで働いているという美奈子に対して、正明の彼女である春香は真面目で清楚な大学院生。正明は人違いだと憤りますが、春香は少し、自分そっくりだという「美奈子」に関心を示しました。
もちろん正明はそのホステスが働くスナックに行く気はなかったはずなのです。ところが、あるとき偶然そのスナックを見つけて入ってしまいます。するとそこには、春香とよく似た例のホステス・美奈子がいたのです。
すぐに春香と美奈子は別人だと判断した正明でした。しかし、彼女である春香を大切に思う一方で、正明は大胆で積極的な美奈子に次第に惹かれていくようになります……。
セカンドラブ乾くるみ小説 見どころ
「そう、君はそもそも、誰なんだい?」
普通に読むと、これはそっくりな二人の女性の間で揺れる男の恋物語です。
本作に登場する二人の女性、春香と美奈子は実は生き別れた一卵性双生児なのだと、美奈子から早々にカミングアウトされます。美奈子は春香の存在を知っているけれど、春香は自身の出生の秘密を知りません。
春香を傷つけないために、正明は美奈子のことも春香の秘密も、春香に隠そうとします。美奈子も春香の幸せを願っているように見えます。
しかし正明は、春香を大切に思う一方で美奈子の存在も忘れられなくなるのです。それ以来、何かと理由をつけて美奈子に会いに行こうとします。先輩である紀藤をスナックに連れていったり、春香と何か進展がある度に「春香の近況報告」を理由に来店したりするのです。
普通の恋愛小説ならば、結局主人公がどちらと結ばれるのか、そこがみどころになるのでしょうか。しかし、乾くるみさんの作品はやはり一筋縄ではいきません。乾さんはおそらく我々読者をとんでもないところに連れていくはずだ、そう思ってある程度様々な予測をしながら読み進めていきました。
そして、今回のみどころは、やはりここに落ち着きました。
「そう、君はそもそも、誰なんだい?」
これは序章の結婚披露宴のシーンでの、正明の独白です。その日の主役である新婦・春香の、まるで美奈子のような姿。正明の目の前に現れた春香は、美奈子は一体誰だったのでしょうか。
セカンドラブ乾くるみ小説 感想口コミレビュー
男性の愛情の形
この作品の舞台は昭和です。スキー場でユーミンが流れていたり、いちいち固定電話で連絡を取り合っていたり、まだ若い20代の男女が貞操観念にこだわっていたり、時代を感じる描写がたくさんあります。
普通に読んでいれば、普通の恋愛小説です。正明が、春香と美奈子の間で揺れ動く話。
私は、正明はきっとどちらも大切に思っていたのだろうと考えています。彼女の春香も、彼女にそっくりな美奈子も、どちらも確かに正明にとっては失いたくないものだったのです。冷静に考えると、生涯一緒に生きていく相手としては春香を選ぶのかもしれませんが、それぞれに会っているときに感じていた愛情は、紛れもないものだったと思います。そこに温度差があったとは思えません。
もちろん、正明のしたことは春香に対する裏切りです。世間的には評価されないものでしょうし、私自身も実際はそんないい加減な男性には嫌悪感を覚えます。しかし、どこかで正明の「気持ち」についてはわかる気がするのです。これはきっと、私が古典文学を学んだからかもしれません。
たとえば、世界的に有名な恋愛小説『源氏物語』に登場する光源氏に対して、浮気性のろくでもない男性だというイメージを持つ人もいるでしょう。しかし、物語をよく読めばわかるのですが、彼はそれぞれの場面で、それぞれの女性を本当に「全力で」愛しています。ある一人の女性に「愛している」と言った直後に、もう別の女性に同じ言葉を囁くような生き方をしているわけです。でも、そこには嘘も矛盾もないように思いました。
現代の常識や倫理観に照らし合わせると、正明の行動はいただけないものです。それでも、正明の心には真実しかなかったのは間違いないと思いますし、本当に純粋で愛情に真っすぐな男性だったから、悲しい結末を迎えることになったのだと思いました。
乾くるみプロフィール紹介
話題作「イニシエーション・ラブ」の作家さんです
乾くるみさんは静岡大理学部数学科出身のミステリー作家です。
代表作には『イニシエーション・ラブ』があります。「このミステリーがすごい」などによく名前が挙がる方なので、知名度はそこそこ高いと思います。
セカンドラブ乾くるみ小説 こんな人におすすめ
頭を使いたい方はぜひ!
乾くるみさんの作品は、少し難しいと思います。ご自身が数学科を卒業されていることもあり、トリックなどが難解な場合があります。作品によっては何度もページを戻って確認しなければならないものもあります。
今回の「セカンド・ラブ」はそこまで難しい話ではありませんが、ところどころに伏線が散りばめられています。むしろ、読了後にこそ考察を深めたくなる作品です。そのため、頭を使いたい方には最適です。
しかし、大体は普通の恋愛小説なので、乾くるみさんをよく知らないけれど興味があるという方にもオススメできます。また、この作品自体が昭和の歌姫・中森明菜さんの楽曲や、平成の歌姫・宇多田ヒカルさんの楽曲をモチーフにしている部分がありますので、両者あるいはどちらかのファンの方にも嬉しい作品です。
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